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人権教育

同和対策の現状と課題 (抄)

 県においては、昭和46年に滋賀県同和対策長期計画を、また昭和57年には滋賀県同和対策総合推進計画、昭和62年に滋賀県同和対策新総合推進計画を、さらに平成5年には滋賀県同和対策新総合推進計画を改訂(以下「改訂計画」という。)し、これらの継続した長期計画に基づいて、関係諸施策を総合的かつ計画的に推進に努めてきたところである。

 特に、「滋賀県同和対策新総合推進計画」は、同和対策事業を円滑かつ迅速に推進し、一般対策への移行を円滑に進めるための特別措置による最終的な総合計画と位置付け、各種の効果的な取り組みに努めてきたところである。

 その結果、全体的には、かつての劣悪で低位であった同和地区の生活実態が大幅に改善・向上され、特に生活環境の改善整備を中心とする物的事業は、計画計上事業が概ね完了の段階にあるなど所期の目標に沿って、相当の成果を収めてきた。

 しかしながら、未だに予断と偏見により差別事象が発生していること、高校・大学への進学率の較差が解消していないこと、また、中高年齢層を中心に不安定就労者の割合が高いことなど、ソフト面を中心になお解決すべき課題が残されている。

 以下、本県におけるこれまでの同和対策について、対策別にその現状と課題を整理していくものとする。

 (略)

4.教育対策

 本県においては、昭和47年に同和教育基本方針を策定して以降今日まで、内外の情勢の変化に対応すべく、昭和56年と平成4年に所要の改訂を行いながら、以後今日までこの基本方針に基づき同和問題の解決を目指して、県民ぐるみの取り組みを進めてきた。その結果、学校教育や社会教育の各分野において推進体制の整備が進み、具体的な取り組みが前進してきた。

 しかしながら、すべての県民が人権尊重の精神を、日常生活の中で具体的な行動に具現するまでには至っておらず、同和問題を解決するうえで、残されている課題も多い。人権の確立に向けて努力することが重要であり、教育の果たす役割を踏まえ、さらにその徹底を図るため、あらゆる教育の場において、なお一層同和教育の積極的な推進を図る必要がある。

(1) 同和教育総合推進体制の充実

 部落差別の解消と人権尊重の意識を生活や行動に具現する実践力の育成、ならびに同和地区の教育文化の振興をめざし、就学前教育・学校教育・社会教育それぞれの分野において、課題解決の取り組みを推進するための諸施策を実施するとともに、関係機関・団体間の連携の促進に努め、同和教育の総合的な推進を図ってきた。

 その結果、各種機関・団体において同和教育を推進するための体制の整備が進み、同和教育推進協議会など地域に根ざした組織活動が積極的に展開されている。

 しかし、県民意識調査の結果や、部落差別事象がなお発生しているという状況にみられるように、差別意識が払拭できていない状況もある。

 そこで、なお一層人権尊重を基盤とする同和教育の総合的な推進を図るため、今後とも啓発活動を積極的に展開するとともに、各種機関・団体における同和教育の主体的な取り組みが促進されるよう、関係機関・団体との緊密な連携と協力に努める必要がある。

(2) 学校教育(略)

(3) 社会教育

ア.推進体制の充実

 県民一人ひとりが同和問題の解決を自らの課題としてとらえ、人権尊重の精神を暮らしに具現するよう、今日まで次のような施策を実施し、推進体制の充実に努めてきた。

  • 社会教育主事や社会教育指導員の設置
  • 学習情報提供システム整備事業の促進
  • 県・市町村同和教育推進協議会事業の促進
  • 指導者の研修
 その結果、社会教育関係機関・団体の活動の中に同和教育が適切に位置付けられるようになるとともに、地域における研修会も継続的に実施されるようになってきた。

 また、同和教育にかかる広報・啓発資料も地域課題に応じて作成され、感性に訴える教材も年々充実してきた。

 しかし、一部の地域においては、推進の要となる指導者や推進員が短期間で交代することなど、推進体制の強化や研修内容の充実を図りにくい状況もみられる。

 このため、これら推進上の問題点の改善を促進することとあいまって、社会教育関係機関・団体ならびに地域住民との連携を強めるとともに、地域に根ざした同推協活動等の活性化に努め、推進体制の充実を図る必要がある。

イ.学習機会の拡充

 市町村ならびに社会教育関係機関・団体における学習機会の拡充をめざし、次のような施策を実施してきた。

  • 地区別懇談会・および共同地区懇談会の推進
  • 社会教育関係機関・団体における同和教育の推進
  • 啓発資料の作成と啓発フィルムの購入補助

 この結果、自治会や隣組において、共同地区懇談会をモデルにした地区別懇談会を実施し、自主的に学習しようとする意欲も高まってきた。

 しかし、参加者に一部固定化する傾向がみられたり、差別の現実に学ぶ学習や同和問題と地域課題を結びつけた学習の積み上げについては、必ずしも十分とは言えない状況にある。

 このため、今後は市町村ならびに社会教育関係機関・団体において地域課題や学習者のニーズの把握に努め、これらにこたえる効果的な学習内容や学習方法についてさらに検討を加えるとともに、地域住民が同和問題をはじめとする人権問題をまちづくりの根底に位置付け、主体的に取り組む学習機会の拡充を図る必要がある。

ウ.自立・連帯意識の高揚

 同和地区住民を対象とした社会教育については、従来地域総合センターを中心として、自立意欲と連帯意識を高めることを基本に、教育・文化の振興をめざし、次のような事業を実施してきた。
  • 地域総合センター教育担当職員の設置
  • 教育・文化活動指導者の研修
  • 同和地区教育文化振興事業の促進

 これらの事業の内容および方法については、改善の努力が重ねられ、その結果、住民の教育・文化活動に対する関心や意欲も高まってきた。しかし、事業のマンネリ化、参加者の固定や減少等の傾向がみられ、必ずしも住民全体のものとなっていない状況もある。

 このため、今後とも地域住民のニーズや日常生活に密接した自主的な活動や地域連帯意識に支えられたまちづくりの取り組みの促進を図る必要がある。

5.人権擁護対策

 昭和54年の「国際人権規約」の批准を一つの契機として、「国際障害者年」、「国際識字年」等の取り組みや、平成7年からの「人権教育のための国際10年」の取り組み、平成8年の「人種差別撤廃条約」の批准など、国の内外の人権意識の高揚を図る機運は、行政、教育、関係機関、団体等の対応や県民自らの取り組みと相まって徐々に高まってきているところである。

  しかしながら、憲法で保障されている人権尊重の理念が、いまだ社会各層に十分浸透していないため、人命を軽視したり、人権を侵す事象がなお発生し、今なお人権擁護・人権尊重の徹底には多くの課題を残している状況にある。

 中でも、部落差別は地域社会の因習や偏見に大きくかかわって、現代社会においてもいまだ存在し、その結果、差別事象・事件がなお発生している状況から、市町村等関係機関と連携を図りながら、同和問題に関する啓発活動の積極的な推進に努めてきたところである。

 具体的には、平成元年に策定した「同和問題に関する啓発活動のあり方」に基づき、今日まで同和教育推進協議会を中心とする地域活動を横糸に、企業啓発、各種団体研修などを縦糸にした、いわゆる網の目の推進体制を基本にした啓発活動を推進してきた。

 その結果、県民の同和問題に対する理解・認識は徐々に高まってきているものの、県民一人ひとりが自らの課題として主体的に取り組むところまで至っていない状況にある。

○県域啓発

 県域啓発は、県民全体を対象にした同和問題に関する基礎的な理解の促進と、人権意識の高揚を図るための気運を醸成するため、広く県民の目や耳に触れる広報紙(誌)の発行や新聞広告、ラジオ、テレビ、映画等市町各媒体の活用、さらに講演会、各種集会等の開催などの啓発活動を実施している。

 また、これらの活動をさらに効果的に進めるために、昭和60年度より「同和問題啓発強調月間」を毎年9月に設定し、集中的な啓発活動を行い、市町村域啓発を相まって効果を上げるよう努めている。

○市町村域啓発

 市町村域啓発は、地域社会に今なお根強く残っている不合理で因習的な差別意識を解消し、同和問題をはじめとする人権問題を住民一人ひとりのものとするため、住みよいまちづくり活動や同和教育推進協議会活動を中心に、地域に密着したきめ細かい啓発活動に努めている。

 こうした取り組みにより、今日まで一定の成果を収めてきたものの分野ごとにおけるいくつかの啓発活動が有機的に機能せず、また内容や手法が画一的でマンネリ化し、加えてリーダーの養成に不十分さがみられるなど、克服すべき課題は少なくない。

 これらの今日的な啓発活動の課題に十分留意しつつ、行政、教育、関係団体等が相互に 連携を図りながら、最終的には県民一人ひとりが啓発の主体になり得るための基礎的な条 件整備を行うという認識に立って、各種の啓発活動を推進する必要がある。

 さらに、部落差別をはじめとするあらゆる差別の解消には、県民一人ひとりの人権意識 の高揚を図ることが不可欠であり、国・県・市町村・県解放県民センターおよび民間団体 が適切な連携のもとに必要な相談活動や調査活動を実施するとともに、人権擁護推進員等 の活動の促進に努めてきたところである。

 このため、同和地区住民をはじめとして、すべての人の権利を擁護することは、行政の 基本的課題と認識しつつ、現状における対応については、次のような点に留意しながら、 さらに人権の尊重に努める必要がある。

ア.各行政は、それぞれの職場で、人権尊重の理念に立った日常業務の遂行に努めているところであるが、さらにその浸透を図っていく必要がある。

イ.人権擁護業務は、制度上、第一義的には国(法務省)の所管であるが、同和問題をはじめとする人権問題の現状を踏まえ、人権擁護活動が十分に保障されるよう、県や市町村等の連携・協力体制をとっているところであり、その活用について一層の周知に努め、効果的なものとなるよう取り組んでいく必要がある。

ウ.地域の人権擁護活動が住民の日常生活の中に定着するよう、地域活動を進める指導者の育成および資質の向上に向けた取り組みを充実させるとともに、こうした活動を住民に周知する必要がある。

エ.なお発生している差別事象・事件については、関係行政機関・団体が適切な連携のもとに社会性のある取り組みを展開することにより、生きた教材として今後の啓発に生かすため取り組んでいく必要がある。