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人権教育

滋賀県人権施策基本方針

1 人権施策基本方針策定の背景

(1)国内外の動向

 第2次世界大戦中に行われた大量虐殺や特定の民族への迫害などの人権侵害や人権抑圧に対する反省から、人権問題は国際社会全体に関わる問題であり、人権の保障が世界平和の基礎であるという考え方が主流になりました。

 そこで、国際連合が人権問題に取り組むことになり、第3回の国連総会(昭和23年(1948年)12月10日)で、「世界人権宣言」が採択されました。世界人権宣言は、生命・身体の安全その他の多くの基本的人権に関する基準を示し、すべての人が差別を受けることなく、これらの人権を享有できるようにすべきであると宣言しています。

 しかし、世界人権宣言は、基本的人権尊重の基準を定めたものであり、それ自体が法的な拘束力を持つものではありません。そこで、宣言で規定された権利に法的拘束力を持たせるため国際人権規約が採択されました。国際人権規約は、もっとも基本的かつ包括的な条約として、人権保障のための国際的な基準となっています。

 さらに、人種差別撤廃条約や女性差別撤廃条約、子どもの権利条約等個別の人権保障のための条約が採択されています。また、国際婦人年や国際児童年、国際障害者年等の国際年を定め、それぞれの課題を解決するため集中的に取り組んできました。

 しかしながら、人権尊重に対する各国の取り組みは一様ではなく、また、東西冷戦が終結した後も、世界各地で地域紛争が多発し、これに伴う人権侵害、難民発生など深刻な問題が起こっています。

 このような中で、平成5年(1993年)には、これまでの人権活動の成果を検証し、現在直面している問題や今後進むべき方向を協議するため、ウィーンにおいて世界人権会議が開催され、人権教育の重要性を確認するとともに、「人権分野における教育活動を促し、奨励し、かつ重視するために、人権教育のための国連10年を宣言することが検討されるべきである」と提唱されました。

 これを受けて、平成6年(1994年)の国連総会は、平成7年(1995年)から平成16年(2004年)までの10年間を「人権教育のための国連10年」とすることを決議するとともに、「人権教育のための国連10年行動計画」を採択し、人権という普遍的文化を世界中に構築するための取り組みを開始しました。

 このような国際的な人権尊重の流れの中で、わが国は、国際人権規約をはじめ、女性差別撤廃条約や子どもの権利条約、人種差別撤廃条約等の人権関係条約に加入してきました。

 「人権教育のための国連10年」の取り組みでは、内閣総理大臣を本部長とする「人権教育のための国連10年推進本部」が設置され、平成9年(1997年)7月には、「人権教育のための国連10年」に関する国内行動計画が策定されました。

 また、平成8年(1996年)12月に、人権に関する施策の推進について、国の責務を明らかにするとともに、必要な体制を整備することによって人権の擁護に資することを目的とする「人権擁護施策推進法」が制定されました。この法律に基づいて人権擁護推進審議会が設置され、「人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合的な推進に関する基本的事項」および「人権が侵害された場合における被害者の救済に関する施策の充実に関する基本的事項」について審議が重ねられました。前者は、平成11年(1999年)7月に、後者は、平成13年(2001年)5月と12月に、それぞれ答申がありました。現在、新たな人権救済制度の創設等を内容とする「人権擁護法案」が提出されています。

 また、最近の法整備の動きとして、平成12年(2000年)12月には、「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」が制定されるとともに、個別の人権課題に対応すべく、「男女共同参画社会基本法」(平成11年(1999年))、「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」(平成12年(2000年))、「児童虐待の防止等に関する法律」(平成12年(2000年))、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(平成13年(2001年))等が制定されています。

(2)本県の状況

 本県ではこれまで、女性、子ども、高齢者、障害者、同和問題、外国人、患者等の人権の個別分野ごとに、それぞれの課題解決のために各種施策に取り組んできました。

 また、平成10年(1998年)7月に「人権教育のための国連10年滋賀県行動計画」を策定し、これに基づき人権教育を積極的に推進してきました。

 さらに人権施策を総合的に推進するために、平成11年(1999年)7月に滋賀県人権施策推進懇話会を設置し、人権施策を推進する上での基本理念や基本方向、推進体系等について協議いただき、平成12年(2000年)9月に提言がまとめられました。提言では、人権施策を推進するための具体的な推進体系として、(1)その中核となる基本方針を策定する必要があること、(2)基本方針の策定および実施に必要な推進体制を整備すべきこと、(3)県民とともに人権施策を総合的かつ継続的に実施していくための法的基盤となる条例を制定する必要があることの3点について指摘されています。

 国の内外における人権尊重の気運の高まりや提言を踏まえて、県が県民の皆さんとともに人権が尊重される社会づくりを推進するための基本となる「滋賀県人権尊重の社会づくり条例」(以下「条例」という)を制定し、平成13年(2001年)4月1日に施行しました。また、知事を本部長とする滋賀県人権施策推進本部を設置し、推進体制の整備を図っています。

 条例には、人権施策の総合的な推進を図るための基本となる方針(以下「人権施策基本方針」という)を定めること、そして、人権施策基本方針を定めるに当たっては、あらかじめ滋賀県人権施策推進審議会の意見を聴くことを定めています。これらの規定に基づき、滋賀県人権施策推進審議会を設置し、人権施策基本方針について調査・審議いただき、平成14年(2002年)10月2日に「人権施策の総合的な推進を図るための基本となる方針について」の答申をいただきました。

2 人権施策基本方針の性格

 人権問題の解決に向けた取り組みは、これまでも県行政のそれぞれの分野で行っていましたが、今後は、あらゆる分野において、人権尊重の視点に立った行政を推進していくことが必要です。

 条例では人権施策基本方針に関して、第5条で「県は、県行政のあらゆる分野における施策の策定および実施に当たっては、人権施策基本方針との整合に努めるものとする」と定めています。すなわち、この人権施策基本方針は、県が各種の政策を決定し、それを具体的な施策の形で実施していくすべての段階において準拠すべき基本的な考え方を示すものです。

 この人権施策基本方針では、滋賀県における様々な人権問題の現状と課題を踏まえて、それらに対処する場合の共通の視点として、人権の基本理念を明らかにしています。そして、いずれの問題解決にも必要である基本施策とともに、それぞれの人権問題に対処するための分野別施策の方向性を示しています。

3 人権問題の現状と課題

女性

  個人の意識や行動、社会の習慣・慣行の中には、未だに女性に対する差別や偏見、固定的な性別役割分担意識に基づくものが見られ、それが女性に対する不利益、不平等を生み出し、かつ女性の社会参画を大きく制約しています。

 また、ドメスティック・バイオレンス(DV)※1、セクシュアル・ハラスメント、性犯罪、売買春やストーカー行為などの女性に対する身体的・性的・精神的な暴力という問題があります。

 ドメスティック・バイオレンス(DV)は、それを目にする子どもに対する影響も大きく、児童虐待との関連も指摘されています。

子ども

 少子化や家族規模の縮小、家族形態の多様化、家庭の養育・教育機能の低下等、子どもを取り巻く社会環境の変化の中で、子どもの権利条約にうたわれている意見表明権をはじめとする種々の権利が十分に保障されているとは言い難い状況があります。

 中でも児童虐待は非常に深刻な状況にあり、平成13年度(2001年度)の子ども家庭相談センターへの虐待相談件数は455件で、10年前の平成3年度(1991年度)と比較すると約27倍に増加しています。

 また、学校におけるいじめや暴力行為、不登校の増加という問題があります。

高齢者

 高齢化が急速に進行しており、今後はより一層、一人ひとりが生き生きと充実した高齢期を過ごすことができる社会が求められています。しかし、単に高齢というだけで一律に社会的弱者と判断されたり、年齢制限等により働く場が十分に確保されていない状況があります。

 他方で、高齢者に対する虐待(介護の放棄や拒否を含む)や、判断能力の不十分な人に対する財産・金銭面等での権利侵害が発生しています。また、施設等における身体拘束という問題もあります。

障害者

 障害のある人もない人も、より身近な地域社会でともに生活することが求められています。しかし、障害や障害のある人に対する誤解や偏見という心理的な障壁は解消されておらず、物理的、制度的な障壁も存在します。また、就労をはじめとする社会参画の場が十分に確保されていない状況があります。

 さらに、虐待や判断能力の不十分な人に対する財産・金銭面等での権利侵害が発生しており、施設等における身体拘束という問題もあります。

同和問題

 昭和44年(1969年)に「同和対策事業特別措置法」が施行されて以来、平成13年度(2001年度)まで30年以上にわたり、特別措置法のもとで数次にわたる継続した計画に基づき関係諸施策を推進してきた結果、生活環境の改善を中心とした物的事業については、相当の成果を収めてきましたが、教育、就労などの分野においてなお課題が残されています。また、今なお誤った考え方や差別意識が残っており、依然として差別事象等が発生している状況もあります。

 また、同和問題に対する誤った意識が残っていることに乗じて、不当な利益等を求めるえせ同和行為も後を絶たない状況があります。

外国人

 近年における諸外国との人的・物的交流の拡大や平成2年(1990年)の「出入国管理及び難民認定法」の改正により、県内に在住する外国人は南米日系人を中心に急激に増加しています。平成13年(2001年)末で24,290人であり、平成元年(1989年)の2.7倍となっています。特に南米出身の人々は約64倍にも増加しています。

 このような状況の中で、外国人に対する理解不足から差別や偏見が見受けられるとともに、言語、習慣、制度、文化等の違いから、住居、労働、福祉、医療、教育等の様々な分野で問題が生じています。例えば、子どもの教育に関しては、日本語の能力が不十分なため、人間関係がうまくいかないこと、学校の授業を理解できないことを原因として、不登校になっているケース等もあります。また、高校進学が困難な状況もあります。

 また、歴史的経緯からやむを得ず在住しなければならなくなった韓国・朝鮮などの人々に対する差別や偏見は依然として残っています。

患者

 近年、医療技術の進歩、疾病構造の変化、人口構造の変化、県民の生活水準の向上等により、健康や病気に関する意識や価値観が大きく変わってきており、患者の人権を尊重した質の高い医療の実現や、患者と医療関係者の望ましい関係の構築が求められています。

 しかし、患者一人ひとりのクオリティー・オブ・ライフ※2の確保・向上という面から見て療養環境が十分整備されているとは言えません。また、医療従事者と患者との間の相互協力関係が十分に築かれていない状況もあります。さらに、医療事故、医療過誤等を含めた医療行為に関わる問題について、患者や家族の立場から相談し、苦情を申し立てる仕組みもまだまだ十分ではありません。

 エイズ患者・HIV感染者や難病患者等に対して、不十分な知識や誤解から、今なお差別や偏見が存在します。また、ハンセン病療養所入所者等については、差別や偏見の存在とともに、長期間にわたる療養生活や、高齢であること、後遺症を有していることなどから、社会復帰が困難な状況があります。

 

以上のほかにも、刑を終えて出所した人、犯罪被害者、ホームレス等の人権をめぐる様々な問題が存在しています。また、インターネットを悪用した人権侵害等の新たな問題も発生しています。

4 人権の基本理念

(1)人権の普遍性・日常性

 人権は、不当な差別を受けている人たちだけに関わるのではなく、私たちすべての人間に関わるという普遍性を有しています。

 例えば、私たちは、テレビ、ラジオや新聞などからいろいろな情報を得、それによって自分たちの生活に必要な判断を下しています。これは、「知る権利」と呼ばれる人権を行使しているのです。

 一方、人権は普遍性と同時に、きわめて身近なものであるという日常性も有しています。前述の「知る権利」は毎日の生活に直結しています。また、私たちは仕事をして収入を得、それによって毎日の生活に必要な物資を買っています。これは、「財産権」とか「勤労の権利」という人権を行使しているわけであり、これらの人権なしには、私たちの日常生活は成り立ちません。

 このように、人権は県民誰もの身近な権利であり、人権尊重の社会づくりに関する県の取り組みはそのことを前提として進められなければなりません。

(2)人権の平等性

 人権はすべての人間に対して同じように保障されなければなりません。

 世界人権宣言の第1条は「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である」と規定しており、条例の前文も「私たち一人ひとりは・・・社会的身分、門地、人種、民族、信条、性別、年齢、障害、疾病等により人権の享有を妨げられることなく」とうたっており、個人の性や人種、出生などのように、その人自身の意思や努力で変えることのできない事実を根拠として、人権の享有に差別を設けることは許されません。

 したがって、県がいろいろな分野で決定する政策やそれを実現するための具体的な施策は、すべての県民の人権の平等性を保障するものでなければなりません。

(3)個人の尊重

 人権は一人ひとりの個人の尊重に根差すものでなければなりません。

 条例の前文にあるとおり、「私たち一人ひとりは、様々な個性をもったかけがえのない存在であり・・・個人として尊重されなければならない」のです。生命や身体の不可侵・安全の保障というもっとも基礎的な人権は、人権がもともと個人のものであることを当然の前提としています。また、「(2)人権の平等性」は、差別を禁じていますが、この禁止も結局は、個々人の人権が保障されて初めて意味を持つわけです。そして、一人ひとりがその個性を発展させていろいろな可能性を追求することは、結果として社会全体の可能性を高め、社会に属するすべての人々にその発展の恩恵をもたらすことにつながります。つまり、県が県民一人ひとりの人権を尊重し、その個性を伸ばす施策を採択することは、県全体の可能性を拡大し、県民すべてに効果をもたらすと言えます。

(4)多元社会と共生

 人権は様々な個性を持った個人がその人らしく生きる権利と言えます。様々な可能性を発展させることによって、多様性にみちた社会を生み出し、その中でいろいろな人たちが共に生きる状況をつくりだします。条例の前文は、「私たち一人ひとりは、様々な個性をもった・・・存在であり」とうたうとともに、「一人ひとりの多様性が認められ、それぞれのもつあらゆる可能性が発揮される機会が与えられなくてはならない」とうたっています。このことは、前述のように、県民一人ひとりの個性を伸ばすことにより、県全体の可能性が拡大し、県民すべてに効果をもたらすことにつながります。そのためには、県民のあいだで多様性が承認され、それに基づいた多元社会が実現し、その中で県民が共生していくことが必要です。

(5)人権の義務的性格

 人権は権利としての性格と並んで、義務としての側面を併せ持っています。前述のとおり、人権は私たちみんなの身近な権利であり、平等に適用され、一人ひとりの個人を尊重し、その個性を伸ばすことを保障します。しかし、人権は国や自治体から与えられるものではなく、国や自治体を構成する個々人の絶えまない努力によって、初めて実現可能となることを忘れてはなりません。

 世界人権宣言の第28条は「すべて人は、この宣言に掲げる権利及び自由が完全に実現される社会的及び国際的秩序に対する権利を有する」と規定していますが、それに続く第29条は「すべて人は、その人格の自由かつ完全な発展がその中にあってのみ可能である社会に対して義務を負う」と規定して、人権が尊重される社会づくりの最終的な責務が実は私たち一人ひとりにあることを明らかにしています。同様に、日本国憲法第12条も「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」と規定しています。条例の前文が「現在および将来の世代にわたり、・・・人間としての尊厳が保障され、すべての人の人権が尊重される社会をつくりあげることは、私たちみんなの願いであり、また責務である」とうたっているのも、同じ趣旨です。

 さらに、条例の前文は「私たちはこのような自由と権利を行使するに際しては、他者の自由や権利を認め合い、相互に尊重しなければならないという義務を負っている」とうたって、個人の人権の行使には他の個人の人権の尊重という制約を伴うことを明らかにしています。

5 基本施策の推進

 人権の基本理念に基づき県が推進すべき基本施策を、

(1) 人権が尊重される条件づくり、つまり人権意識高揚のための教育・啓発に関わるもの
(2) 人権が侵害された場合の救済、具体的には被害者の相談・支援体制に関わるもの
に分けて示します。

(1)人権意識の高揚−教育・啓発

 人権意識高揚のための教育・啓発活動については、家庭、学校、地域社会における人権教育および人権啓発を以下のとおり推進します。

(人権教育)

  1. 家庭教育

 乳幼児期における家庭環境を充実することは、成長後に他人の生命を大切にし、人権を尊重できる人格を形成する上できわめて重要です。

 しかし、少子化や家族規模の縮小、家族形態の多様化が進み、地域社会の連帯意識が弱体化しつつある現状においては、乳幼児を育てる保護者が親族や近隣の人たちからアドバイスを受けることが困難になっています。また、男女が共同して子育てに当たる諸条件が十分でない中で、家庭が本来担うべき教育の場としての機能が十分に発揮されていない状況があります。なお、このような状況は、乳幼児期に限ったことではなく、就学後についても同様です。

 したがって、このような家庭の教育機能の低下を補充し、それを強化する社会的な取り組みを一層充実することが必要です。県としても、家庭の孤立化を防ぎ、男女が共同して子育てに当たる条件を整備するために、子育てに関する学習機会や情報の提供、地域社会において、また保護者同士で情報交換を行える場の設置等、積極的に支援体制の強化を図ります。

  1. 学校教育

 児童生徒の人権意識の高揚を図るため、個々の児童生徒の自尊感情を高めるとともに、他者を尊重しお互いの違いを認め合う、つまり自立と共生の意識を深め、発展させる教育を推進します。

 また、人権に関する知識と並んで人権に対する感性を磨くことも重要であり、そのため学校教育の中に高齢者、障害者、外国人などと交流する体験学習の機会を取り入れます。

 さらに、これらの教育を推進するに当たって、個々の生徒の自主性を尊重し、自発的な取り組みを奨励するために参加型学習を促進します。

  1. 社会教育

 地域社会が弱体化しつつある現状にあって、人権教育の場としての地域社会の役割を再検討し、必要に応じて、その活動の支援・促進に努めます。また、生涯学習の基礎として人権教育を位置づけ、多様な学習機会の充実等学習環境づくりを進めます。

(人権啓発)

 人権啓発のための活動は、これまでも様々な場で取り組まれてきました。地域社会のほかに、県内の企業や各種団体、NPO※3等の中にも人権啓発に取り組んでいるものがあり、県として、これらの啓発活動がより充実したものとなるよう、教材や講師に関する情報提供等の支援を行います。また、県自体も、いろいろな形で人権啓発に取り組んできており、今後ともその充実に努めます。

 そして、県が人権啓発活動を支援し、自らこれに取り組む場合には、次の諸点に留意します。

 まず、啓発に当たっては、人権が県民すべての日常生活に不可欠な自分自身に関わる権利であり、すべての個人が差別なく尊重され、お互いが他者の個性を尊重し多様性の中で共生すべきであり、人権が尊重される社会を形成することはすべての個人の義務でもある、という認識を深めることを目指します。

 また、啓発は、他者の身になって人権を考える態度を養うこと、つまり、子どもや高齢者あるいは障害のある人などの立場に立って、それぞれ相手の感じ方、考え方を思いやる態度を身につけることを目指します。そうした意識を身につけ、それに基づいて行動する態度を自分のものとすることを人権啓発活動の目標とします。

 さらに、どのような啓発も、結局は県民一人ひとりの人権意識高揚を目指します。県民がお互いを思いやれるようになることは、みんなが暮らしやすい滋賀県をつくることにつながり、結果として、県民一人ひとりがその恩恵を受けることになります。県民一人ひとりの人権意識の高揚こそが、一人ひとりの自発的な行動を促し、人権が尊重される社会の実現につながるという認識のもとに推進します。

(2)人権侵害に対する救済−相談・支援体制の充実

 被害者の法的救済や加害者の処罰は法務省や裁判所など国の機関の専管事項であり、県が実施可能な救済手段として、相談・支援に取り組む必要があります。そこで、県としては、このような機関との連携を図るとともに、以下の点に留意して、相談・支援体制の充実を図ります。

 第一に、人権を侵害された、またはされている個人が、安心してかつ容易に利用できる相談・支援体制を目指します。すなわち、利用者のプライバシーを保護し、不安を取り除き、地理的にも利用しやすいものとすることが肝要です。そのため、相談に関する秘密を保持することはもちろん、周囲を気にせずに相談できるよう、相談場所についても配慮します。また、地理的に利用可能なものとするために、国や市町村の機関との連携・協力を図ります。

 第二に、利用者が信頼できる相談・支援体制を目指します。相談・支援の対象となる人権侵害が多種多様であることから、総合性・一般性に富んだ相談・支援の窓口の整備に努めます。他方で、利用者の中には一般的な指導・助言を求めるだけでなく、専門的なガイダンスを必要とする個人も含まれることから、個別の問題についてより専門的に対応できる窓口の充実を図ります。

 第三に、利用者が納得できる結果を出せるような、効果的な相談・支援体制を目指します。すべての相談・支援窓口があらゆる専門性を備えているとは限らず、利用者の要望に即座に対応することは不可能かもしれません。しかし、利用者が少なくとも納得できる結果を出すために、窓口相互間のネットワークの確立に努め、適切な窓口を紹介できる体制をつくります。また、紹介した窓口が利用者の要望にどのように対応し、それがどのような結果につながったかをフォローアップするように努めます。

 第四に、相談・支援体制の存在、つまりどこにどのような窓口があるかが、県民に広く知られていることが必要であり、相談窓口のPRに努めます。

 第五に、相談・支援等を行うNPO等と連携・協力することが必要です。利用者の立場に立って対応できることや、ノウハウを持っているという面でも、NPO等の果たす役割は重要であり、これら民間の窓口と連携・協力するとともに、必要に応じて支援を行います。

 以上のような基本施策を総合的・体系的に推進するためには、基本施策に関する情報収集や研究等を行うことが必要であり、そのような場の整備について検討します。

6 分野別施策の推進

(1)女性

  • 固定的な性別役割分担意識の解消

 社会に根強く残っている男女の固定的な性別役割分担意識を解消し、家庭、地域、学校、職場等でこうした意識に根差す制度や慣習の見直しを促進します。

  • 方針決定の場への女性の参画の促進

 行政、企業、地域等における方針の立案、決定に男女の意見が反映されるよう、女性の参画を促進します。

  • 男女共同参画社会の条件整備

 男女がともに職業生活と地域・家庭生活との調和・両立を図るため、育児・介護サービスの充実を図ります。また、男女がともに家事、育児、介護等を担うという社会的気運を醸成します。

  • 職場における男女不平等の解消

 職場において、女性が意欲と能力に応じた待遇を受けられるよう、男女雇用機会均等法の厳正な適用について指導・啓発します。

  • あらゆる暴力から女性を守る体制の整備

 ドメスティック・バイオレンス(DV)、セクシュアル・ハラスメント、性犯罪、売買春、ストーカー行為等の身体的、性的、精神的なあらゆる暴力から女性を守るために、迅速で適切な対応が図れるよう、子ども家庭相談センター、男女共同参画センター、警察、医療機関、司法、NPO等の関係者による連携を図り、相談、保護、自立支援の取り組みを強化します。特に自立支援については、経済的な自立の促進やカウンセリング等による精神的な支援を行います。
 また、女性の保護、救済を機動的、弾力的に行えるようなシェルターの充実について検討します。
 また、ドメスティック・バイオレンス(DV)が重大な人権侵害であるという認識を広めるとともに、暴力を許さない社会意識を高めるよう啓発を行います。
 さらに、再発防止のため、加害者に対する教育・カウンセリングの実施について検討します。

(2)子ども

  • 子どもの意見が尊重される社会環境づくりの推進

 子どもが夢や希望を持ち、生き生きと健やかに育っていくため、子どもが意見を表明できる機会を幅広く提供します。そして、子どもの意見や思いを社会に生かしていくための取り組みを行います。

  • 子どもの権利の普及啓発

 子どもを一方的な保護対象としてではなく、独立した人格を持つ権利の主体として認識するような気運を醸成します。そして、子どもの権利条約の内容について、子どもと並び、教育関係者、保護者など子どもに関わるすべての大人に対して普及啓発を図ります。

  • 児童虐待防止

 児童虐待の未然防止と早期発見・救済を図るため、子ども家庭相談センター、保健所、保育所、学校、医療機関、NPO等との連携強化を図るとともに、虐待防止に関する普及啓発を図ります。そして、児童虐待に関する各事案に適切に対応するために、子ども家庭相談センター等専門機関の体制や機能の充実を図ります。
 被虐待児の処遇については、児童養護施設などの入所施設における体制の充実を図ります。また、家庭に近い雰囲気の中で育つことが有効であることから、里親制度の普及を図ります。
 さらに、再発防止のため、虐待の加害者に対する教育・カウンセリングを行います。

  • 児童養護施設等における子どもの権利擁護の充実

 児童養護施設等では、保護者に虐待を受け、心身ともに傷を負った子どもの入所が増加しており、施設における一層適切な処遇が求められることから、子どもの権利擁護のための第三者機関の整備等、施設における子どもの権利擁護の充実に努めます。

  • 子育て支援

 保育施策の充実をはじめ、子育てを社会全体で支援するシステムの充実を図ります。

  • 不登校児童生徒支援

 不登校はどの子どもにも起こりうるものであるという視点に立ち、不登校の要因や子どもの状況に応じて、自発的に登校できるような支援を行います。
 また、地域や保護者に対して、不登校についての理解を深めるための啓発を行います。

  • いじめ防止

 いじめを生み出しやすい土壌を改善するため、個性や違いを尊重する意識や態度の育成を目指す教育を行います。これと並んで、いじめの早期発見や、被害者の心のケア、加害者の指導に努めます。

(3)高齢者

  • 社会参画の促進

 高齢者が、これまで培ってきた経験や知識を発揮し、生きがいを持って社会参画できるよう、支援体制の充実を図ります。また、就業の場の確保を促進します。

  • 介護サービスの充実

 自らの意思が尊重され、その人らしい自立した質の高い生活が送れるよう、介護サービスの一層の充実を図ります。

  • 一人暮らし高齢者への支援

 一人暮らし高齢者が、不安を感じることなく生活できるよう、安否確認等の体制づくりや生活支援等の一層の充実を図ります。

  • バリアフリー※4の促進

 自らの意思で自由に外出し移動することができるように、道路、交通機関、建物等のバリア(障壁)を解消するとともに、ユニバーサルデザイン※5の考え方に基づく誰もが住みよいまちづくりを推進します。

  • 権利擁護の充実

 判断能力の不十分な人に対する財産・金銭面および身体・精神面に関する権利侵害についての相談・支援を充実させるとともに、権利侵害を受けずに地域で安心して暮らせるよう、地域福祉権利擁護事業や成年後見制度の普及促進を図ります。

  • 施設入所者等の人権擁護の促進

 本人の意思に反して過度に行動の自由を制限する身体拘束の禁止など、施設入所者等の人権に配慮した質の高いサービスが提供できるよう指導を行います。

(4)障害者

  • ノーマライゼーション※6の理念等の普及啓発

 障害者が地域社会で安心して生活するためには、地域住民がノーマライゼーションの理念に基づき、障害や障害者について正しく理解することが不可欠であり、その理念等について普及啓発を行います。

  • 地域における生活支援

 地域社会で生活ができるよう、コミュニケーション支援や介助サービス等の一層の拡充を図ります。また、障害者が自らの意思で社会参画できるという意味での自立を支援する必要があり、経済的な自立という観点からは、雇用の場の確保を促進します。

  • バリアフリーの促進

 自らの意思で自由に外出し移動することができるように、道路、交通機関、建物等のバリア(障壁)を解消するとともに、ユニバーサルデザインの考え方に基づく誰もが住みよいまちづくりを推進します。

  • 権利擁護の充実

 判断能力の不十分な人に対する財産・金銭面および身体・精神面に関する権利侵害についての相談・支援を充実させるとともに、権利侵害を受けずに地域で安心して暮らせるよう、地域福祉権利擁護事業や成年後見制度の普及促進を図ります。

  • 施設入所者等の人権擁護の促進

 本人の意思に反して過度に行動の自由を制限する身体拘束の禁止など、施設入所者等の人権に配慮した質の高いサービスが提供できるよう指導を行います。

(5)同和問題

  • 一般施策※7による対応

 教育、就労などの分野における残された課題解決については、地域の状況や事業の必要性の的確な把握に努めた上で、必要な一般施策によりその解決を図っていきます。

  • 心理的差別の解消

 差別意識の解消を図るに当たっては、これまでの同和教育や啓発活動の中で積み上げられてきた成果と手法への評価を踏まえて、人権教育、人権啓発の事業に再構築し、その中で同和問題を重要な柱として推進します。

  • 地域総合センターへの助言

 地域総合センターにおいて、その利用対象地域の実情に応じた福祉の向上や人権啓発のための住民交流の拠点となるコミュニティーセンターとして、総合的な活動が行えるよう適切な助言に努めます。

  • えせ同和行為の排除

 同和問題に対する誤った意識を植え付け、同和問題解決の大きな阻害要因となっているえせ同和行為に対しては、警察や地方法務局等関係機関と緊密な連携を保ち、排除へ向けた取り組みを進めます。

(6)外国人

  • 外国語による情報提供、日本語教育の推進

 言葉の壁を解消し、在住外国人が円滑な生活を送れるよう、各種媒体を使った外国語による生活情報の提供や相談体制の充実、日本語教育の推進を図ります。

  • 多文化共生社会の創造

 外国人に対する正しい理解を深めるための啓発に努めます。さらに、異なる文化を理解しようとするだけでなく、出会いと交流を通して、お互いの文化を尊重し、違いを認め合うことで、豊かな地域文化を創造し、多文化共生社会を構築していきます。

  • 国際理解教育の推進

 学校教育においては、外国の文化や伝統を尊重し、外国人児童生徒と共に生きていく資質や能力の育成に努めます。併せて、在日韓国・朝鮮人児童生徒が日本の学校に在籍している歴史的な経緯や社会的な背景が正しく理解されるように努めます。

  • 外国人児童生徒への教育

 学習言語としての日本語能力が不十分なために、学習意欲をなくして不登校となる子どもが増加することは深刻な問題であり、一人ひとりの児童生徒の習得状況に応じた生活適応指導および日本語指導を推進するとともに、母国の文化や言語に接する機会の確保に努めます。

(7)患者

  • 療養環境の整備(クオリティー・オブ・ライフの向上)

 入院施設におけるプライバシーの保護や生活環境の快適さ等の面で、日常生活の継続が可能となるよう療養環境の一層の整備を促進します。

  • 患者主体の医療

 患者には医師と対等の立場で医療を受ける権利があることを前提として、患者が主体的に参加できる医療となるよう、医療従事者に対してインフォームド・コンセント※8の確立を働きかけるとともに、患者自身に対しても、患者の 権利について自覚し、主体的に医療に参加するよう普及啓発を推進します。

  • 正しい知識の普及啓発

 エイズ患者・HIV感染者、難病患者、ハンセン病療養所入所者等に対する偏見や差別の大きな要因は、これらの疾病を正しく理解していないことにあることから、正しい知識の普及啓発を図ります。

  • 相談体制整備

 医療事故や医療過誤を含めた医療行為に関わる問題について、患者やその家族が苦情を申し立て、また相談することができる制度を充実します。

 このほか、犯罪被害者への相談支援の充実や、刑を終えて出所した人の人権について啓発を行う等、人権が尊重されるための様々な施策を推進します。

7 推進体制

(1)県庁内の推進体制

 この人権施策基本方針に基づき、全庁的な推進組織である滋賀県人権施策推進本部を中心に、関係部局相互の緊密な連携のもと、人権施策の総合的かつ効果的な推進に努めます。

 また、基本方針に沿って、県行政のあらゆる分野で人権尊重の視点に立った行政が推進されるよう、絶えず人権尊重の視点から県の施策の点検・見直しを行います。

 併せて、県が実施する人権施策を県民の皆さんが評価できるように必要な情報を積極的に公開します。

(2)県職員等に対する人権研修

 この人権施策基本方針に基づき、施策を推進するに当たっては、施策を実施する者自身が人権尊重の理念を理解し、行動に移せることが不可欠です。したがって、県職員はもとより、教育関係者、警察職員、医療・福祉関係者など、人権に関係の深い職業に従事する者に対してより一層の人権研修の充実に努めます。

(3)国、市町村、NPO等との連携

 人権施策は国、市町村においてもそれぞれ実施されており、県の人権施策をより効果的に推進するために、これら行政機関と緊密な連携を図り、相互に協力します。

 また、人権が尊重される社会づくりの最終的な責務が私たち一人ひとりにあるという意味からも、県民、企業、各種団体、NPO等による自主的、主体的な活動は不可欠であり、これらの活動との連携を図ります。特に、NPOは、機動性に富み、多様な個別ニーズに柔軟に対応できるなど優れた特性を持っており、様々なニーズに対応して人権施策を実施するために、県とNPOが連携・協力するとともに自主性や自発性を尊重しながら、情報・学習機会の提供や人材養成等の支援を行います。

用語の解説

※1 ドメスティック・バイオレンス(DV)

 親しい人間関係の中で起こる暴力をいい、身体的暴力だけでなく、精神的、性的、経済的な暴力なども含む。

※2 クオリティー・オブ・ライフ

 生活の質的向上をいい、医療現場においては、患者や家族の人生観や価値判断を優先させ、生命、生活、人生の質的内容を重く見ていこうとする考え方。

※3 NPO

 民間非営利組織(団体)。本来は、公益法人や共益団体も含む幅広い概念であるが、わが国では市民活動を中心とした団体として捉えることが多く、目的達成に重点を置いた営利を目的としない公益的な団体である。行政や企業とともに、これからの社会を支えていくものとして大きな期待が寄せられている。
 なお、類似の言葉で「NGO」があるが、これはもともと国連憲章の中で使われている言葉で非政府組織と訳される。通常国連では「NGO」に営利企業を入れないので、基本的には「NPO」と同じである。

※4 バリアフリー

 障害者が社会生活を営む上での障壁(バリア)をなくすこと。バリアには意識上のもの、建物などの物理的なもの、制度的なものなどがある。

※5 ユニバーサルデザイン

 年齢、性別、障害の有無に関わらず、すべての人が利用可能なように、常により良いものに改良していこうという考え方。

※6 ノーマライゼーション

 障害者等の社会的に不利を負いやすい人々を当然に包含するのが通常の社会であり、そのあるがままの姿で他の人々と同等の権利を享受できるようにするという考え方。

※7 一般施策

 対象地域や対象者を限定して適用する施策である「特別対策」に対して、対象地域や対象者を限定しない施策を「一般施策」という。
 (同和問題に関しては、同和対策事業特別措置法以来、特別対策が行われてきた。)

※8 インフォームド・コンセント

 患者が医療行為の内容について医師等から十分な説明を受け、納得の上で同意すること。