昭和53年度 滋賀県社会教育委員会議報告書

社会教育研究調査報告書
昭和53年度

県社会教育委員専門部会(文化振興部会)報告の概要について

文化振興部会研究調査

1.市町村文化活動の現状と問題点
 県民の文化的要求の増大と関係者の努力により、地域における文化活動は年々普及の一途をたどっているが、実際の参加者は一部のものに限られ、地域格差も大きく全県的に普及しているとはいえない。

 市町村における文化活動の現状と問題は次のとおりである。

1)市町村における芸術文化事業

 各市町村教育委員会においては、文化団体等の協力を得て、文化祭や音楽会・民踊等の公演発表会、美術・写真展覧会等の展示会、芸術文化に関する講座・講演会等を開催している。これらの事業は県で行う文化のさとづくり事業として本年は全市町村で実施され、年々充実の方向にはあるが、内容については今一歩の感じがする。

 芸術文化活動の発表の場、鑑賞の場として大きな役割を果たす文化祭は、これまた全市町村で実施されているが、行政運営及びその内容、さらに参加者においてもマンネリ化の傾向がみられ、住民の出品・出演が低調な市町村もある。

 芸術文化に関する創作技術を習得する機会を提供するための文化講座・学級等は本年から全市町村で実施されているが、一部の市町村を除いては種目が限定され、その開設数は少なく住民の要求に充分応えているとはいえない。

2)市町村文化団体の組織

 地域における文化活動の推進力となっている文化団体の組織状況をみると、団体数も会員数もかなりの増加がみられる。現在把握している団体数は、1598団体で前回の調査より50%増である。

 活動分野別にみると、音楽352、生活文化284、茶華道191、美術191が多く、演劇舞踊等が少ない。

 同一市町村内の文化団体がお互いに横の連絡を密にすることは、市町村における文化活動を普及振興するうえで大きな意義を有するが、文化協会等総合的な連絡組織を結成しているのは27市町村に過ぎない。

3)市町村の文化行政基盤

 市町村における文化行政は、主として教育委員会において担当しているが文化課を設置している市町村は、一市だけである。

 教育委員会事務局において、文化に関する業務を本務としている職員はほとんどなく、人的体制は十分とはいえない。

2.地域文化活動普及振興方策の方向
 本県における文化活動推進城の問題点を解決して文化活動を広く普及するため、県及び市町村は次のような方策を積極的に推進することが必要である。
  • 優れた芸術文化を鑑賞する機会を拡充し、芸術文化に対する趣味と関心を喚起する。
  • 芸術文化に関する知識や技術を習得する機会を拡充する。
  • 文化団体の組織化と活動の充実をはかり、自主的な芸術文化活動を促進する。
  • 青少年を対象とした芸術文化活動を普及振興する。
  • 文化行政における人的・物的体制を整備し、地域文化活動の基盤を確立する。

1)鑑賞事業について

 優れた芸術文化を鑑賞することによって人々は感銘を受け、文化活動に対する趣味と関心が喚起され、その結果鑑賞能力が向上するとともに、自ら進んで芸術文化の創造活動に参加しようとする意欲が高まってくる。

 従って、公民館等の社会教育施設・及び学校等を会場に、市町村教育委員会が主体となって、関係団体等の協力のもとに各種の公演会や展示会が多く開催されることが望まれる。県においても舞台芸術の巡回公演や美術作品の巡回展覧等を拡充し、広く県民に文化の鑑賞の場を提供していくことが必要である。

2)創作技術習得機会について

 芸術文化に趣味を覚え、創作活動に取り組みたいという要求を持ちながらも、初心者が団体やグループに参加して活動することにはためらいがあり、技術や能力の面で困難な場合が多い。そこでこれからの創作活動を行いたいと希望している初心者に対して基礎的な創作技術を習得する機会を提供していくことがぜひとも必要である。そのため県の行う文化普及事業と相まって、学級・講座の開設を促進することが望まれる。これら学級・の開設にあたっては住民の要求や希望を的確に把握し、実施計画の策定につとめ、住民が自由時間を活用し、楽しみながら技術を習得できるよう種目や開設の場所・時期・時間等に配慮するとともに、学習内容や指導者の選定にも充分留意することが必要である。これには、県で行っているリーダーバンクを利用するのがよかろう。

 なお、所定の課程を修了した後は、自主的なグループとして成果を発表し、創作技術研鑽の活動が継続できるよう配慮して運営にあたることが肝要である。

 さらに、これらが団体サークルまでに発展するよう努めるのが望ましい。

3)発表事業について

 創作活動の成果を発表する場が設けられていることは、団体活動や学級・講座等において文化活動を行っているものにとっては、日頃の活動の励みになるとともに自己実現の喜びを味わう機会ともなり参加していないものにとっても、参加意欲を喚起するうえで大きな役割をやたすことになる。

 従って、文化活動の普及振興のためには、各種の発表事業を数多く実施することも欠かすことのできない要素である。

 また総合的な発表事業は、ともすれば文化の日を中心に秋季にのみ開催される傾向が強いが、春季にも開催することや分野ごとの発表を数多く開催するなどの配慮も必要である。

4)文化団体の組織化と活動

 一般住民が展開する文化活動は自由時間における自発的活動として、人々の欲求と自由な意志に基づいて行われるところにその特質がある。

 従って、アマチュアの文化活動は、地域や職場における民間の自発的な文化団体が中心となって推進されるのが望ましい姿である。

 しかし、文化団体の組織化が充分ではない現状においては、文化行政の分野として、住民の自主性を尊重しつつ、積極的に文化団体の育成にも手をさしのべる必要がある。既成の文化団体に対しては、活動の場の確保、広報媒体の提供、事業に対する助成等を行い、組織の強化や活動内容の充実を促進することが望まれる。

 また、個々の文化団体相互の連帯を密にし、文化団体活動の全市町村的、総合的盛り上がりをはかるため、文化行政関係者が助言して文化協会等の文化団体連絡組織の結成やその活動の促進を図ることも必要である。

5)地域文化活動基盤の整備

(1)人的体制の充実

 市町村における人的体制については、住民が自由時間を活用して展開する文化活動の促進を、側面的に援助する教育委員会や社会教育施設等の職員が大幅に増員されることが必要であり、その勤務態様についても特定の配慮が払われなければならない。少なくとも、市及び市に準ずる規模の大きい町の教育委員会は、文化課又は文化系を設置し文化行政を専任で担当する職員することがぜひとも必要である。

 なお、地域における文化活動の指導者不足を解消するため、県のリーダーバンクを有効に利用することも必要である。

(2)文化関係予算措置の充実と振興計画の樹立

 文化行政における人的・物的条件を整備し、各種の事業や団体育成を進めるためには、文化関係予算の大幅な増額に努めなければならない。

 また、住民の意向を十分に反映した文化活動振興計画を策定し、長期的な見通しのもとに文化活動の基盤づくりに取り組むことが望まれる。

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