昭和60年2月 滋賀県社会教育委員会議報告書

企業内における社会教育について とくに家庭教育について
検討の経過
1 企業内での家庭教育の必要性
イ.企業としては従業員の家庭が健やかである事が望ましいといえるし、経営者や管理担当者などは従業員の家庭状況を知っている必要があると思うがお互いにふれたがらない雰囲気もありプライバシーの問題ともかかわって慎重に配慮する必要もある。しかし、家庭の事が気になって仕事が手につかない場合もあろう。大企業にはカウンセラーを置いているところもあると聞いているが中小企業ではそうした相談にのれるシステムがほとんど設置されていないのではなかろうか。こうした場合、家庭教育について指導助言が得られる組織などがあればおおいに活用されると思われる。

ロ.企業内では同和教育や交通安全教育などに取り組んでいるが、家庭教育への取り組みはほとんどないのが実態であろう。しかし、日本の雇用形態やライフサイクルが変化しつつあり、その中でどう生きて行くのか今後は職場内の教育として家庭教育についても実施していく必要がある。

ハ.高齢化社会を迎え企業の活性化という意味からも熟年講座をはじめ家庭の問題に取り組むことも考えられていいのではないか。物的な環境が整備されると同時に豊かな心を持つ事は人間として当然であり、企業が心の講座開設にそろそろ目をむける時代が来ているといえる。労働組合なども自分達自身の問題として考えていかなければならない時代であろう。労使相互に知恵を出し合えば解決の道が開けるのではなかろうか。

ニ.母親の立場から考えると子どもを育てる中で行きづまる事は多い。子育てに行きづまるといらいらする。親のいらいらが子どもの欠点ばかり目につきやすいものである。その時、さり気ないカバーのし方によって母親が生気をとりもどす。夫婦で話し合っていると自然とわかり合える。従業員の家族を大切にするという意味で企業での家庭教育は従業員の生産意欲の向上につながるのではないか。

ホ.問題児を対象とするのではなく子育てを問題にするのであるから気楽に情報を収集する機会として大切であり、何らかの方法で試行してみてはどうか。

2 情報提供について
イ.企業の広報紙にも家庭教育の記事が掲載されるし、経営者セミナーに行ってもそういう話題が出たりするようになってきている。国民意識調査による日本人の悩みは、自分の家族の健康、子どもの進学や進路などが大きいウエイトを占めており、それらについて情報収集したい気持ちがつよいと思われる。

ロ.社会教育は地域等で行う自発的な任意の教育でありああしろこうしろという強制的なものではない。情報や機会を提供するのが社会教育である。新しい世代は育児も夫婦で一緒にやっている。例えば、産婦人科へも一緒にくるし、婦人雑誌や育児雑誌等も一緒に呼んでいるのではないか。情報があればどんどん提供するべきである。問題は40歳代以上の父親への対処ではないかと思われる。

ハ.住民に情報や資料が届きにくいなど行政はPRが下手であるが、企業の食堂やサロンに資料をおいてもらう方法もある。企業でパンフレット等の啓発資料を配るなど情報提供はしてもよいし、時間外にサービスとして講座を開くことはよいことだと思う。しかし、家庭教育が企業における従業員の管理に過度に利用されても困るので企業内での家庭教育の受講がきっかけとなってPTAや公民館の事業に参加するようになってほしいと思う。

3 学習の場づくり
イ.学習の場としては多いほど良いと思うが一番に企業に飛び込んでいかなければならないかというとそうではないだろう。PTAの学級で学習したりテレビでも教えられるものが多いし、他に学習機会は多くあると思われるので短絡的に企業へというのは充分検討すべきであり、学びたい人が学べる場づくり、学ぶための便宜をはかるという学習機会の提供として考えて行くべきであろう。若い夫婦が子どもを産むという事態を迎えて不安を持ったりする場合にどこでどんな学習をしてゆけばよいのか、核家族の場合とくに学習の場の提供や資料の提供の必要性が出てくる。また子どもが生まれた後も親とくに母親が過剰な時には間違ったとも思われる期待をかけている場合もある。ライフサイクルを見通せる人間づくりをすること、みんなで次の世代の人を育てるという観点から当初は行政サービスとして必要かも知れない。しかし、企業では上下関係がはっきりしているので、その中にまで家庭教育を入れられるとうんざりしてしまうのではなかろうか。勤務時間内における家庭教育のおしつけは息がつまってしまうのではないかと思うので慎重に対処すべきであろう。

ロ.資格の取得や学校以外での学習になじみにくい日本の社会では、おけいこ事や専門学校に通う人がふえて来たとはいえまだまだ社会教育に対しての認識は薄いと思われるが、日本の企業としては県からの話があればこのような問題を出してもすんなり入れてもらえるのではなかろうか。

ハ.問題意識を持ってもらうこと関心を持ってもらうことだけでもよいと考えられるが、市町村と企業とが連携をとって事業を実施しないと地域が浮いてしまうのではないかと思われるので配慮すべきである。

4 学習の場づくり
イ.現在どんな状況かを参考にするため、企業内で調査を行うこととする。本音の出にくい場合もあるので判断の材料として絶対視しないでその傾向を知る必要があろう。

ロ.調査事項

  1. 他府県の状況
  2. 県内企業における実態

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