平成12年3月 滋賀県社会教育委員会議報告書

新しい時代に対応する青少年教育のあり方について

〜社会全体で子どもを育てる環境づくりのために〜

青少年教育への具体的施策について
 以上のような認識のもとに、新しい時代に対応する青少年教育のための具体的施策として、家庭、学校、地域を対象とした次のような施策を提案します。
1)家庭における教育力向上のために
 家庭は、子どもたちにとって最初に接する最も身近な社会です。また、家庭での教育は、基本的な生活習慣や生活能力、自制心や自立心、豊かな情操、他人に対する思いやり、善悪の判断などの基本的倫理観、社会的なマナーなどを子どもたちに育むものであり、全ての教育の出発点であります。 

 にもかかわらず、近年の都市化、少子化、核家族化等によって、地縁・血縁的なつながりに子育ての知恵を得ることが難しくなったこと、個人重視の風潮など人々の価値観が変化したことなどによって、家庭の教育においても様々な変化が生じています。

ア 健全な青少年の育成には何をおいても家庭教育が基本
 健全な青少年の育成には何をおいても家庭での教育が基本であり、過度の学校への依存をなくし、親が子どもに対して基本的な生活習慣や躾の徹底を責任を持って行うことが望まれます。

 このようなことから文部省が出した「家庭教育ノート」「家庭教育手帳」などの冊子をもとに、地域での家庭教育学級の開催や子育て支援事業を充実する必要があります。

 また、新たに学習会を興すだけでなく、母子保健の機会を利用して、子育てにかかわる全ての親の家庭教育を支援することが大切であります。さらに、「全国子どもプラン」によって整備される「子どもセンター」において、家庭教育に関する情報提供が行えるようなしくみづくりや、24時間体制による家庭教育電話相談体制などネットワークの充実を図ることが必要であります。

イ 親の考え方や意識を変える講座・教室の開催
 子どもを育てるためには、親の意識改革が大切であります。親の意識改革のため、家庭教育学級、父親学級など様々な学習機会が設けられていますが、これらを教育委員会の単独事業として行うのでなく、健康福祉部局や保育所、学校と連携して開催することで参加率の向上を図るとともに、研修の充実を図ることが大切です。
ウ 地縁関係の再生
 地縁的なつながりに子育ての知恵を得ることが難しくなった今こそ、希薄になった地縁関係の再生が必要です。そのためには、子育てを一人ひとりの個人的営為だけにするのではなく、子育てのための地縁集団の育成や日常親しく交際するためにも「向こう三軒両隣運動」などの新たな地縁的な関係を育成する支援こそが、保育園幼稚園時代に必要です。
2)学校に対する社会教育からの支援策として
 学校教育に対する社会教育からの支援策としては、学社連携・学社融合といった考え方に基づいた支援をさらにすすめる必要があります。そのため、教員に対する研修のみでなく、教員と行政職、並びに地域の団体等とが合同研修を開催する中で、地域の教育力の総結集を図りながら実践していく必要があります。
ア 「総合的な学習の時間」の導入による既成概念を越えた学校教育の展開
 青少年の自立性の欠如が指摘される中で、児童・生徒が自立できる教育プログラムが、いま、新教育課程に導入される「総合的な学習の時間」の中で追求されようとしています。また、中学校においては選択教科の幅の拡大があります。これらの学習課程は学校の管理者である校長の裁量によるところが大であることから、地域の人材を積極的に活用した自然体験活動、またボランティア活動などの社会体験学習の積極的な採用により、子どもたちに「生きる力」を育むことが必要です。
イ 長期キャンプ事業の導入
 青少年の体験不足が嘆かれている今、自然体験学習等を「総合的な学習の時間」として捉え、積極的に導入すべきであります。

 自然体験学習として、寝食を共にするキャンプ事業の活動が「生きる力」を育む上でも有効であり、長期のキャンプ事業の実施をすることも必要であります。

ウ 長期の夏期休暇を利用した職場体験学習の実施
 学校教育にあっては、学年が進むにつれて体験学習の場が少なくなり、小学校での様々な体験学習活動がその後の中学校等での教育に活かされていません。社会を知る活動、「生きる力」をつける活動、将来の進路を考える場として商店街や工場など地域の企業等に協力を願い、職場体験学習を推進していく必要があります。1日〜2日程度の体験はこれまでも各学校において実践されてきましたが、より長期(1週間程度)にわたって行えば、職場の人との人間関係、職場内容の理解、勤労の尊さなどが体得でき、その効果は計り知れないものがあります。それは、家庭・地域・学校の三者の協力があって初めて実現可能な学習プログラムであり、より積極的に取り組む必要があります。
エ 全ての子どもを対象とした県・各市町村施設でのボランティア体験活動のプログラム化事業
 平成14年度からの新しい学習指導要領においては、ボランティア活動が明文化されており、“子どもの学び”もしくは“子どもの活動”という観点から、 「道徳教育 」や「総合的な学習の時間」、「特別活動」の中に位置づけられています。

 ボランティア活動には、

  1. 知識を得る喜び
  2. 人と出会える喜び 
  3. 学習の成果を生かせる

3つの喜びがあります。

 この活動は、まさに新しい学習指導要領の基調でもある“体験的な学習”と“問題解決的な学習”に結びつくものでもあります。

 また、ボランティア活動は、先ず課題に気づき、それをなんとかしようと思うところから始まる“終わりなき永遠の学び”であり、青少年教育の課題である「生きる力」を育成するにはまさしく期待できる活動であるわけです。

 ボランティアの推進方策の一つとして、県・市町村がそれぞれが抱える施設で日常的な受け入れができるボランティア活動プログラムの開発が期待されます。

 また、できるだけ早く、施設におけるボランティア活動を多くの青少年が経験するようにし、青少年が無理なく自発的に実行できるようにする必要があります。

 さらに、民間企業等にも広く協力と支援を求めていくことも必要であります。

オ 山村留学事業の展開
 生涯学習の中での青少年教育や学校外での教育活動を実践していくには、一時的に親もとを離れ、今の便利な生活システムから子どもたちを引き離すことも大切であります。青少年を一定期間預かるシステムを構築し、今日の何不自由のない社会から離れることによって、真の人間同士のふれあいを通じた人間形成を図ることができます。
カ 社会体育・公民館講座等の体育活動、文化活動と学校教育との連携
 部活動は、学校教育活動の一環として、学級や学年を越えて教員の指導のもとに行われています。特に運動部活動は、学校教育目標を達成するための一つの場として、多くの学校で精力的に行われてきました。しかし、対外試合等の勝敗にこだわるあまり、いくつかの弊害が生じているとも言われています。また、生徒数減による指導教員の減少、指導教員の高年齢化などにより、これまでのような精力的な活動ができにくい現状があります。完全学校週5日制の実施を目前に控え、学校、家庭、地域の教育がバランスよく機能していくためにも、地域や学校の実状を踏まえつつ、子どもが生涯にわたり様々な場で学習、文化活動、スポーツ活動に参加できる体制づくりと、学校のスリム化を真剣に考えていかなければなりません。
キ 教員の社会教育主事講習への積極的参加支援
 これからの青少年教育には、学社連携・融合の手法が必要不可欠であります。それらを進めていく上で、専門的な知識や幅広い見識をもつ指導者が必要であり、学校と行政や地域社会との連携の推進をひとつの校務分掌に位置づけ、そのリーダーに社会教育主事の資格をもつ教員をあてることも検討されなければなりません。

 また、社会教育主事講習は、現場の教員にとっては幅広い見識だけでなく、ヒューマンネットワークの構築につながることなどから、より多くの教員がこの講習に参加できるようなシステムづくりが必要です。

ク 民間企業への派遣研修システムの拡大
 青少年の教育を考えるとき、教員の幅広い研修の実施も大切であります。現在、教員の民間企業への派遣研修システムが実施されていますが、その成果は計り知れないものがあります。教員は、大学卒業と同時に指導者として教員の職につく者が多く、学校以外の社会体験の少ないままに、日々すごしています。体験学習の必要性の説かれる中、教員の体験不足もまた現実問題として気にかかるところです。このことを考えるとき、教員の研修のあり方も学校教育のみの研修にとどまらず、民間企業への派遣研修等、幅広い研修への参加体制や専門分野への研修システムの充実が必要です。
ケ 開かれた学校にするために、学校情報公開を
 地域社会に開かれた学校づくりを目指すには、学校の教育方針、学校の姿勢、学校の様子、児童・生徒の取組み等を、地域に積極的に知らせることが大切であります。広報紙の作成やホームページの開設、町広報への掲載、あるいは、PTAや学区民代表のボランティアを募り広報活動の促進を図ることも考えられます。

 また、日頃の教育活動の実際を保護者だけでなく地域全体に公開することも望ましいことであり、学校評議員制度の導入などにより開かれた学校運営を検討することなども必要であります。

3)地域社会における教育力を生かすために
 地域社会での人材及び指導者の中には、自然体験や社会体験・社会経験の卓越した人がたくさんいます。このため、人材ボランテイアによる登録制度もあり、指導者の確保もなされています。今日、生涯学習社会の中で学びの成果を活かしたい人が地域にたくさんいるにもかかわらず、実際には積極的に活用されていない実状があります。

 その理由として、社会教育における人材ボランティア登録と、学校教育が必要とする人材ボランティアの求めるところに違いがあることがあげられます。学校教育においては子どもの発達段階や学習領域に応じたきめ細かな人材に係る資料提供こそ必要で、そのような観点から活用しやすいシステムの構築をはかると共に、地域人材を活用した青少年への教育に寄与できる体制づくりをすることが求められます。

ア 休耕田を利用した自然・農業体験活動の実施
 休耕田を利用した、野菜、お米、果樹等の栽培活動は、総合的な人間力の向上を図っていく上で有効であり、自然を慈しみ、食べ物を作り育てる喜びを味わい、生命や食べ物の大切さを教える貴重な体験学習の場であります。地域社会の人材、特に職場の第一線をリタイヤした方などを指導者として迎え、異年齢交流、世代間交流を図ることで、土に親しみながら勤労の尊さを学ぶことも必要です。また、田畑や水路等に棲む多様な生物に親しみ、自然のしくみを知ることも大切であります。
イ 地域での運動会を小学校、中学校と連携
 地域における運動会等の行事において、地域と学校でそれぞれ個別に実施するのでなく、地域と小学校、中学校が連携をとり、企画や運営に青少年を参画させることなどで、「生きる力」の醸成や異年齢間の交流が自然にでき、人間性豊かな青少年の育成に役立つことが期待されます。
ウ 青少年の社会体育の充実
 スポーツ少年団の対象者は小学生から19歳までとなっており、中学生、高校生もいますが、大抵のスポーツ少年団の活動は小学生が中心で、運動部活動で多忙な中学生がスポーツ少年団に入ることは難しい現状です。青少年が自由にスポーツに親しむことは心身の健康の保持増進にとって大切であり、健全育成には欠かせないことであります。平成14年度からの完全学校週5日制の実施とその趣旨からも、児童生徒自身によるスポーツの選択のためには、青少年の社会体育の更なる充実と体制づくりが期待されます。
エ ものづくり体験事業の推進
 私たち大人が子どもの時代は、今のように遊ぶところも物もなかった時代でありましたが、竹とんぼやゴム動力飛行機等、先輩から「ものづくり」を通して人との関わり方や道徳心・モラルなどを自然に学んだものです。また、工夫しながらものを作る喜びに心が満たされたものであります。

 今までのような、知識中心の学習のみでなく「ものづくり」を通した体験的学習を重視することも大切であります。工業高校の教育力を活用したり、商工労働部との連携を密にしたりするなどして、子どもたちがものづくりに親しむ機会を増やすことが必要です。

オ 地域の伝統芸能教室の開催
 急激な時代の変化とともに、日本古来の伝統文化や地域の伝統行事がなくなりつつあり、またその継承も難しい時代となっています。このような中で、能・太鼓・地域の踊り等の伝統を伝える活動を通して子どもたちに古い伝統芸能・文化のよさに気づかせることが必要です。

 また、その指導者として地域の人材を活用することで、異年齢交流、世代間交流が図られ、地域での文化活動を通した青少年の健全育成につなげることができます。

カ 各市町村の青少年団体の育成と活性化の推進
 青少年の教育には青少年リーダーの存在が欠かせません。青少年団体に「地域の生きた青少年教育」を期待することができないでしょうか。中でも青年団は、地域のお兄さん、お姉さんとして、少年を育てる上で良きパートナーあり、指導者でもあります。地域あげて青少年団体やサークル等の育成に努力すべきであります。
キ 青少年育成市町村民会議等の活動の強化
 青少年育成市町村民会議は、各市町村に組織され、青少年の非行防止キャンペーンなど非行防止や健全育成にかかる活動を展開していますが、青少年対策と同時に青少年の活動を支援する会議でなくてはなりません。青少年育成市町村民会議がその活性化と地域の青少年とふれあいができる活動の推進を図ることを期待します。
ク 青少年の居場所の確保
 県、および各市町村では、公民館をはじめ、図書館、博物館、文化ホール、生涯学習複合施設、体育館など様々な教育施設の充実が行われてきましたが、いずれも大人中心の施設が多いのが現実です。そんな中で、青少年が心安らぐ居場所づくりを中心とした施設の開放や施設の拡充が必要です。

 また、各施設においては、小・中・高校の学習指導要領の内容に即した利用の仕方を考え、適切な学習プログラムを開発し、学校や地域に発信するとともに、青少年が団体もしくは個人で訪れた場合の望ましい対応の仕方も考え、施設として学習融合を図ることが大切です。

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