昭和61年12月 滋賀県社会教育委員会議報告書

高等学校等公開講座の具体的方策について(建議)
1.大学・高等学校等開放講座の現状

(1)大学・高等学校等開放講座の概要

ア.実施の目的

 今日の急激な科学技術の進歩や社会情勢の変化は家庭生活の合理化と、余暇時間の増加をもたらし、人々に自己の充実・啓発、暮らしの向上を求めるとともに、様々な知識や技術の習得と生涯にわたる学習の継続を迫っている。

 このような情勢のなかで、本県においても多くの県民の学習要求にこたえるため県内の短期大学や高等学校がもっている専門的教育機能を県民に開放して、「大学・高等学校等開放講座」(以下「開放講座」と略す)が開設されてきた。

イ.事業運営の概況

 この講座を円滑に運営するため、開設校ごとに運営委員会を設置し、開設時期、講座の内容、方法等について企画し、実施にあたった。その主な開設の基準は次に示すとおりであり、その開設状況は表1,表2のとおりである。

●講座運営委員会の構成

 校長(または教頭)、事務長、講座主任(教職員)、開設地市町教育委員会職員で構成する。

●学習時間

 年間学習時間は30時間以上、開設時期は運営委員会で設定する。

●受講者と定員

 県民および県内に在勤する成人を対象とし、1講座の定員は30名以上とする。

●事業費

 この講座の事業費は国および主催者で負担する。

表1 年度別・校種別開放講座開設状況(延学校数) ( )内は市町村主催 「成人大学講座 」で外数

表2 年度別・内容別開放講座開設状況(延学校数) ( )「成人大学講座」で外数

(2)開放講座の成果
 開放講座が開設されて以来の5年間に県下各地で多くの成人が学ぶ喜びを実感し、人との出会いを楽しみ、学びの輪が広まった。

 中には家庭や職場の都合等で不本意ながら欠席したり、途中でやめた人もあったが、その真剣な学習姿勢は講師や担当教職員、高等学校の生徒に生涯学習への認識を新たにしたようである。以下は開放講座で学んだ人たちの感想も含めて成果を受講者、開設校の二つの立場からまとめたものである。

ア 受験者の立場から

  • 大学や高等学校のもつすぐれた人的、物的教育機能は大変魅力的である。
  • あまり身近に感じられなかった高等学校が、開放講座で学ぶことにより、地域に開かれた高等学校というイメージをもたれている。
  • いろんな年齢層の受講者が学ぶことにより、世代間交流がなされている。
  • 同じ趣味や学習ニーズをもつ者同士ということから、仲間づくりに発展している。
  • 開放講座の魅力は「受講料が無料である」「講師が学校の先生である」「学校の充実した施設が利用できる」「学校と地域との結びつきが考えられている」などである。

イ 開設校の立場から

  • 一般成人を指導することにより、地域住民の学習ニーズや地域課題を理解するきっかけとなっている。
  • 開放講座を通して、受講者(地域住民)との交流が深まるにつれて教職員に地域との連携の大切さが理解され、住民に学校を理解してもらおうとする姿勢が高まっている。
  • 地域の成人が真剣に学ぶ姿は高校生や教職員に生涯学習の大切さを感じさせている。
  • 担当教師が相互に教材研究や指導方法について熱心に意見交換したことは生徒への教育効果を高めることにもなっている。
(3)開放講座実施上の問題点
 開放講座開設以来5年間で延べ36講座、成人大学講座も含めると50講座が展開されてきた。

 その結果、前述のような成果が得られたが、一方では、さまざまな問題点も指摘されており、これらの改善、充実をはかり、よりよい講座にしていかなければ県民の期待にこたえることはできないと思われる。

 以下は受講者や講師から寄せられた問題点を二つの観点からまとめたものである。

ア 開放講座開設(受け入れ)にあたって

  • これまでの開放講座の内容は趣味、職業、家庭・日常生活に関するものであって、その開設は職業科高校に偏っている。
  • 講座の内容によっては教材や資料の準備に相当な時間を要するものがある。
  • 高等学校は生徒の教育に専念すべきだから地域住民に学習機会を提供するだけの余裕はないという考え方が一部にある。
  • 高等学校は生徒の通学範囲が広域であり、学校運営上、市町村との結びつきの機会が多くないことから、この講座の開設にあたって戸惑いをもつことがある。

イ 講座内容、講師について

  • 最初に指導計画をたてていたが、受講者の熱意にこたえて予定の時間を越えて指導することが度々あって負担になっている。
  • 受講者の学習要求は多様であり、また年齢や知識にも格差が大きい。
  • 歴史、文学、芸術などの教養を高める学習が増えつつあるが、この分野での講座は開設されていない。さらに、地域課題や今日的課題などに取り組む講座も開設されていない。
(4)課題
 大学・高等学校等開放講座について、その概要、成果、問題点に分けて述べてきたが、これらとかかわる課題として次の5つがあげられる。
  • 県民の多様な学習要求(注1参照下図)にこたえるための具体的方策が必要である。
  • 講座内容、会場、講師等について柔軟な発想で企画したり、地域の特色を生かすなどユニークさが望まれる。
  • 格差のある受講者に対応できる指導体制が必要である。
  • 開設の意義が十分に理解され、協力が得られるよう、学校関係者への啓発に一層努める必要がある。
  • 講座の趣旨、募集要項等が広く県民に周知される必要がある。
(注1)県民の生涯学習に関する意識と活動の実態調査(昭和57年 滋賀県教育委員会)
あなたが、今後学びたいまたは続けたい、とお考えの学習や活動を1つから3つ選んでください。

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